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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)722号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

弁護人桜井忠男、同中村登音夫の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

弁護人桜井忠男同中村登音夫の上告趣意第一点について。

論旨は、被告人は自分が経営している撚糸工場の業務一切は工場管理人山村喜代治に一任して自分は之れに関与しない、そして本件撚糸二三〇貫は木村広吉から預って保有しているものであって、工場管理人山村には知らせていないもので自分の撚糸業とは無関係のものであると主張する。しかし原判決が証拠として挙示した原審公判における被告人の供述によれば被告人は撚糸工場の経営者であって指定繊維資材たる生糸人絹糸等の委託加工及び割当糸の撚糸加工販売を業とする者であり、其経営については工場管理人山村喜代治に任せてあるが、其責任は自分が負わなければならない旨及び所論撚糸二三〇貫は売買の周旋をするつもりで木村広吉から預って之れを保有したものである旨を供述している点に鑑みるときは、被告人の業務に全然関係がないものとはいい得ない。そして原判決は所論撚糸二三〇貫について特に被告人は業務に関して保有していた旨を説示していないが、判決の趣旨は右撚糸は被告人の業務に関して保有したものと判断したものであると推断し得る。従って指定繊維資材配給規則附則第三項の趣旨が所論の通りであるとしても原判決は何等審理不盡の違法はない。論旨は理由がない。

同第二点について。

按ずるに昭和二十二年九月十日商工省令第二三号指定繊維資材配給規則附則第三項により判示調査表提出の義務ある者の指定は同年同月同日商工省告示第五四号によってなされているのであるから、原判決認定の事実に対し臨時物資需給調整法の罰則を適用するには右配給規則附則第三項の外右告示第五四号を適用しなければならない。けだし右配給規則附則第三項は右告示第五四号により補足され其の内容を具備するものであるからである。従って原判決において右告示第五四号を適用しないことは法律を適用しない誤りがあると主張する論旨は理由があり、破棄をまぬかれないものである。

よって旧刑事訴訟法第四四七条第四四八条により当裁判所において更に判決をすることとし、原判決認定の事実に法律を適用するに、

被告人の所為は、臨時物資需給調整法第五条第一号、第三条第一項、指定繊維資材配給規則附則第三項、昭和二十二年九月十日商工省告示第五四号、右配給規則第一条、昭和二十二年一月二十四日閣令、商工外八省令第一号指定生産資材割当規則の付表第一(同年七月十二日商工、農林省令第四号を以て定められ同年九月十日商工、農林省令第六号により改正されたもの)に該当するところ、臨時物資需給調整法第五条第一号は、本件犯行後罰金等臨時措置法により罰金刑に変更が加えられているので、刑法第六条第一〇条刑法施行法第三条第三項により新旧の刑を比照するところ、所定刑中の重い刑である懲役刑は新旧同じであるから、行為時の刑である変更前の刑に従うこととし、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内において被告人を罰金一万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとする。

よって主文のとおりに判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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